朝から音もなく、霧雨が降っています。
普段、鉱物やスノードーム、ガラスドームはなるべく光の柔らかい午前の陽の光で撮影しているのですが、こういった雨の日は光源が心許ないので、撮影ができません。
撮りためた写真がある場合なら、それを利用して記事を書くのですが、生憎このところの不調でストックもなく。
そんなわけで、今日は先日コメント欄でリクエストを頂いた(当日の記事は
こちら。この記事内でちらりと写っています。さすが
くつ箱さん、お目が高い!)、昭和16年に発行された高等女学校・実業学校の理科教科書「女子鑛物教本」を紹介してみたいと思います。
女子と鉱物。
なんとも心惹かれるフレーズ。
といっても、私は戦前の教科書に関しては全くの無知です。
もとはと言えばとあるブログにて、「女子鉱物界教科書」なる書物が紹介されており、その昭和の色使いによる鉱物画に一目惚れし、それ以来ずっとあちこちを探していたのでした。
この本はそれとは違う出版社から発行された教科書ではあるのですが、たまたま「女子鉱物」で定期的に検索をかけていたヤフオクで引っかかって、半年ほど前に購入したものです。
破格値だった分それなりに痛んでいて、決して状態が良いわけではありません。
とはいえ、十分に読める程度ですし、カラーの鉱物画もよい状態だと思います。
目次一頁と奥付。
内容としては鉱物学の導入として平易でわかりやすく、初学者でもすらすら読める程度。
発行の例言として
1、博物教育及び鉱物教授の目的はいろいろあるが、これを一貫する精神を「正当なる人生観、特に日本人としての正しい人生観を樹立すること」に定め、これが実効を収めることに努めた。
2、女子の科学的知能の向上を図ることは、現代人の文化生活の実情と女子の本務とに鑑み、益々その必要の度を加えるので、本書の内容も著しく向上した。
(後略)
などと書いてあるのが現代では面白く感じます。
正しい人生観…女子の本務…。
つい、「清く正しく美しく」というフレーズを思い起こさせます。
セーラー服におさげ髪の、正しい女学生。
本書の発行は昭和16年に三省堂から。
私が憧れた「女子鑛物界教科書教本」とは違う書物ですが、発行年は同じです。
と言っても、こちらは改訂版ですので、先行した原版は昭和八年発行のもので、こちらの方が先に世に出回っていた可能性がありますね。
ちなみに「女子鑛物界教科書」は加藤武夫(理学博士)著の初学者向けの教科書で、出版は「富山書房」です。こちらも継続的に探してはいるのですが、現在まで入手できずにおります。
初めに憧れた教科書とは違う書物ですが、こちらも戦前の何とも言えない味わいのあるモノクロ画や写真がいい味出してます。
カラー図版3点。
西洋の図鑑の硬質な鉱物画と比べて、なんとなく物悲しい、ノスタルジックな雰囲気を感じるようなタッチの博物画に見えるのは、やはり戦前の女学校で使われた教科書であるという先入観からくるのでしょうか。
どこかとぼけたような印象の、岩石や鉱物の画を眺めていると、ロマンティックな気分になります。
戦前の女学生がこのロマンティックな画を眺めて何を思ったのであろうか、と夢想するのはなかなか楽しいです。
鉱物画はもともと好きで、ついあれこれと集めてしまいますが、この本はなかなか拾いものだったと思っています。(この他、カラーの地図が2点ありますがそちらはさして珍しいものでもないので割愛します。)
これはまったくの余談なのですが、私の故郷・東京都府中市には「府中郷土の森」という施設があり、そこに明治からの建築物が幾つか移築されていて、こういった書物を見ると何となく、その郷土の森を思い出します。プラネタリウム、博物館(父に初めて鉱物標本を買ってもらったのがここの売店でした)、明治期の郵便局、旧い小学校や茅葺の農家などが敷地内にある施設なのですが、これらの共存する風景が幼い頃から馴染んでいて、私の中では鉱物=ノスタルジーに通じています。
中学生時代に読んだ雑誌MOEで作家・長野まゆみ氏の特集で、氏が「明治村に行きたいけれども遠い、という時は気軽に来れるこちらへ」というようなことを書かれていて、そこからまた、一段とこの施設が私の中でお気に入りにもなり、高校時代は一人自転車でよく、この施設に来ては木陰で読書などしたものです。
今は実家に帰省するたび、子供たちを連れて水遊びやプラネタリウム見学に行くのですが、この子たちもいずれ、そういう風に思い出す日が来るのかな、などと感慨深い気持ちになります。
ノスタルジーとはやはり、自身の思い出や思い入れと密接なつながりがあるものですが、子供たちにとってのノスタルジーの源はいったいどこになるのか、楽しみです。
……理科少年に育ってくれたらいいな、と密かに思っているのは内緒です。
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