ドイツ製胆礬結晶
2013年 07月 17日
ドイツ製の胆礬結晶。
胆礬=カルカンサイトは非常に水に溶けやすい性質を持っており、自然界にも鉱物として存在しますが、大きな結晶はめったに見られません。
そのため、観賞用として人工的に岩の上に硫酸銅を結晶させたものが胆礬として流通しています。
ミネラルフェアなどで売られており、私が所有しているのはその類のものです。
ずいぶん前のミネラルショーで手に入れた、ごく安価なものですが、店番頼まれただけで鉱物に全く興味も知識もないよ、と自ら言っているような人しかお店におらず、これは人工結晶ですよね?と聞いたら「へえーそうなのー、で、人工結晶って何?」と・・・。
幸い、ラベルが付属していたので、ドイツ製の人工結晶ということまではわかっています。
ちなみにこの青、いかにも毒毒しいですが、実際毒性があり、しかも水に溶けやすく湿気に弱いので保管には注意が必要です。
中医学で胆礬というと催吐剤のことを指し、まさにこの胆礬の毒性を利用して、温い湯に混ぜて毒物などを吐かせるのに使うそうで、外用薬として風熱などによる目の充血をとるために使ったりもするようです。毒を以て毒を制す、ということでしょうか。
が、もちろん胆礬の毒性は強いので、素人が自分の判断で使ってはいけません。
我が家では手の届かない棚の上の、密封できる薬瓶に乾燥剤とともに入れたうえで、施錠できる箱にしまってあります。
そんな、危ない毒薬じみたこの青、たまりませんね。
今までご紹介した鉱物とは違った意味で、涼しくなれる鉱物です。
さて余談ですが、画像背景に使ってみたのは古くは石器時代から見られ、ヒポクラテスも著書でその施術について触れており、中世から近代のヨーロッパで行われていた民間療法、「トレパネーション=頭部穿孔」の図です。

頭痛や精神病を治療するために頭蓋骨に「トレパン」(語源はギリシャ語で穴を意味する「Trepa」)なる器具によって穴をあけるわけですが、これは外科的根拠のある処置ではなく、頭に穴をあけて霊的に悪いものをだす、という神秘主義的な思想に基づく処方であり、どこか骨相学と似た臭いを感じます。
頭蓋骨に穴なんかあけてしまって大丈夫なの?!と思いますが、勿論大丈夫ではありません。
この穴が致命傷になることはなくてもその部分は脳がむき出しに近い状態になるため、少しの衝撃でも致命傷となることもありますし、穴をあける際に器具によって脳に傷がつけられてしまったり、細菌による炎症をおこしたりするため、碌なものではありません。
患者が押さえつけられ、よく見ると手も縛られて拘束されていて、なかなかこれも涼しい気分になる図版ですね。
ただ、「頭の中の圧力を下げる」だとか、「頭の中にある悪いものを外に出す風穴を開ける」なんて言われると、偏頭痛持ちの私にはなかなか説得力のある、というか、実体験に寄り添った療法に思えて納得しそうになります。
猛烈に頭が痛いとき、頭に穴をあけたらすっきりするんじゃないかな!!!ってくらいに見境なくなってしまうのもわかる気がするのです。
と、そんな気分に同調しなおかつ、「穴をあけると圧力が下がって脳内血流量が増え、幸福感を味わえるようになる」との説(勿論医学的に根拠はありません)を信じて実行してしまう人々が現代でもいるそうで、そこまでいくほど私はニューエイジな人間ではないのですが、個人的には理解に苦しむほどでもなかったりします。
そんな話をところ、医師には鼻で笑われてしまいましたが、こういった民間療法にこそ、人々の病苦になんとか対抗しようとするエネルギーのようなものを感じられて、個人的にはとても興味深いものだと思うのでした。
追記:
トレパネーションに納得しそうだった私を鼻で笑っていた漢方医の話。
(私自身は医学に関して全くの素人です。内科医・漢方医の話をなるべく誤謬のないよう記載したつもりですが、もし間違いなどありましたらご指摘いただけると有難いです)
東洋医学において流行感染症などを「風」といいます。
昔はウィルスや細菌など、感染症の原因がわからなかったので流行性の感染症を「風」と呼び、それによって熱が出ると「風熱」、おなかが冷える、手足が冷たいなどの症状が出ると「風寒」としたそうです。
風邪に風、とつくのはここから。
話を聞いた医師の専門は内科・漢方で中医学ではないので「胆礬」には詳しくないそうなのですが、漢方では「外から来た悪いものを体外に出させる」治療を行うことがあり、毒が到達したのが表面(日本の漢方では「表証」)までの時は「汗で出させる」(葛根湯など)、中間(日本の漢方では「半表半裏証」)までの時は「散らす」、消化管まで落ちてきた(日本の漢方では「裏証」)ときは「吐かせる、下痢させる」という対処法をとるそうで、その吐かせる時に使用する薬なのだろう、とのことです。
催吐剤というのは毒性のあるものを用いることが多いそうで、体が「毒だ」と判断して無理やり外に出す作用を利用して治療するのが目的なのだそうです。
鉱物の毒を飲ませる、などと言うとどことなく陰惨なイメージがありますが、現在でも行われている、医学的に根拠のある治療法の一つなわけで、それを「怪しい」などとヴィクトリア調時代のトレパネーションと同じレベルで語られると鼻で笑わざるを得ない、などというようなことを話していました。
ちなみに、医学的根拠のない民間診療であるトレパネーションとは全く違って、脳髄液圧亢進症などの病気で頭蓋に穴を開ける外科手術は存在するそうですが、その場合は感染症を避けるために脳室腹腔シャントと言って、脳髄液をお腹まで流す処置をするそうです。そりゃそうですよね、穴があけっぱなしだなんて、インカ帝国時代と違うんですから処置しないことには、後が大変です。
なんにしても鉱物の毒性を医療に利用できるのは興味深いことですが、決して試したりはしないでくださいね。

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