大野麥風展―「大日本魚類画集」と博物画に見る魚たち
2013年 08月 17日話は遡りますが、昨日は鉱物barが三時からの会場だったため、午前中は東京駅の東京ステーションギャラリーで開催中の『大野麥風展―「大日本魚類画集」と博物画に見る魚たち』と、同じく東京駅丸の内口徒歩一分のkitte内インターメディアテクを観てきました。
魚の形の麥風展のチケット。
お恥ずかしながら大野麥風については「魚の日本画家」ということしか知りませんでした。
むしろ本草図説などの展示があると聞いて、江戸期の博物画を観たくて訪れたのですが、これがどうしてなかなか、見ごたえのある展示でした。
本邦における博物学の基礎となったのは言うまでもなく、江戸期に発達した本草学です。
中国で薬効のある植物を研究する学問として生まれた本草学は、奈良時代に日本に伝わって以来研究分野を動物・植物・鉱物・魚類・昆虫と裾野を広げていき、江戸期には大いに発達しました。
この時代の本草学者である栗本丹洲や高木春山は自らも多く優れた博物画を描き、図譜を編纂しました。
この時代の本草学者は医学者や儒学者、国学者などを兼ねており、ルネサンスにおける医師や科学者が美術家、神学者などを兼ねていたように、アートと学術と信仰が繋がっていて、なかなか面白いです。
博物画というとどうしても、舶来のものを想像してしまいがちなのですが、本邦の博物画は緻密でありながらやはり浮世絵の画法に影響されており、これはこれでなかなか風趣なものです。
四方を海に囲まれた島国の特権ですが、魚類に関しては驚くほど生き生きと、動きまで捉えた芸術的な博物画も多いのです。
と、そんな博物画ももちろん見ごたえがありますが、なにより感動したのは大野麥風の「原色木版二百度手摺り」の手法で描かれた魚たちの圧倒的な躍動感です。
もともと洋画家であった大野麥風は、その写実性を取り入れた画法で日本画の世界に入り、魚の研究やフィールドワークを重ねた上で生き生きとした魚の絵を描き、やがて「魚の画家」と呼ばれるまでになります。
この「大日本魚類画集」では、当時すでに斜陽であった浮世絵の再興を果たしたといっても過言ではなく、仕事を離れ埋もれていた彫師・摺師を集め、緻密な打ち合わせを重ね、伝統的な「原色木版二百度手摺り」の版画を摺り上げたそうです。
まあ、こんな美術書と図録の受け売りの薀蓄はともかく、鉱物好きとして注目したいのは、魚の肌の表現などに使われている「雲母(きら)摺り」です。
これは地色を摺った上に、膠(にかわ)などをつけて雲母の粉を振りかけ、それを重ねる浮世絵の手法で、何とも言えない風合いの、微妙にパールがかった光沢が美しいのです。
こればかりは図録などで見てもその絶妙さは伝わりがたく、ぜひ、本物を見ていただきたいと思います。
展示図録。
当時の魚類学の権威の監修を受け、緻密に書かれた原画をもとに200回も版木を摺って、雲母の粉を載せて、ようやく出来上がる芸術品。
こんな図譜が毎月一枚届くなんて、なんて素敵な企画でしょう。
当時のブルジョワジーの趣味人のための企画ではあったのでしょうが、憧れてしまいますね。
この展示をコメントにて教えてくださった銀さんに感謝いたします。
思わぬところで東京ステーションギャラリーに久しぶりに訪れることができましたが、やはり、展示内容もさることながら、館内通路の重要文化財の煉瓦がむき出しのアルコーヴ部分の螺旋階段は、いつみても素敵です。
引っ張るつもりはないのですが、この後訪れたインターメディアテクについては、また長くなりそうですので、明日の更新とさせていただきます。
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